イントロダクション

 

不朽の名作には、不滅の魂が宿ります。近松門左衛門の「曽根崎心中」は男女の究極の愛を描いた、まさに名作中の名作。その名に恥じないように、2001年の初演から今日まで、キャスト・スタッフ一同、切磋琢磨を重ねて参りました。進化を続けて参りました。

 情念の炎を、新しい風がさらなる高みへと昇華させてくれることを信じ、作品の魂磨きに一層、励みたいと存じます。

 

阿木燿子

作品解説

 本作品では、2つの<大きな実験>が行なわれています。ひとつは、近松門左衛門が描いた極めて日本的な情緒・情念の世界を、いかにフラメンコで表現するのか、ということ。もうひとつは、日本語の歌詞で歌われるオリジナルな音楽で全編を上演していることです。

 鍵田・佐藤は、演劇的手法を大胆に取り入れ、シンプルかつテンポよく物語を説明・構成。しかもその“説明”はオリジナルな動きで極めて舞踊的に表現されているため、見るものの心を近松の世界にぐいぐいと引き込んでいきます。さらに具体的な感情を、独自の身体表現で、踊り手たちは舞います。鍛え抜かれた体に感情が内からあふれ、雄弁な肉体が提出されるのです。その圧倒的な表現力で見るものの心を奪います。

 日本語でカンテ(フラメンコの歌)を歌う――、これはフラメンコの世界では、ほとんどタブーとされてきたことです。フラメンコは、踊り・ギター・カンテが三位 一体となって表現されるもの。特にカンテは、その要となるもので、フラメンコ独特のリズム、ノリは、スペイン語と不可分のものとされているのです。

 阿木燿子作詞、宇崎竜童作曲による楽曲は、もともとロック版「曽根崎心中」のために作られたものですが、それをフラメンコ化して(フラメンコ独特のリズムに乗せて)歌っています。日本語の歌は言葉の威力を改めて感じさせるもので、阿木の歌詞は、しっかりとした骨格をもちながら、近松の世界と現代とを橋渡しし、宇崎の音楽は、通常のフラメンコ曲よりもメロディアスで、それが一層、舞台を盛り上げています。踊り手・佐藤の高い音楽性と、音楽監督・宇崎の自由で真摯なフラメンコへのアプローチ。楽器編成は、ギターを軸に、篠笛、土佐琵琶、和太鼓といった日本の伝統的和楽器を取り入れ、さらにピアノ、パーカッションが参画、大胆なコラボレーションを成功させました。

 こうした試みを成功させたことで、本作品はこれまでのフラメンコにはなかったエンターテイメント性とポピュラリティを獲得したといえるでしょう。

PAGE TOP